2016年5月31日火曜日

『ガケ書房の頃』山下賢二(夏葉社)を読んで

ガケ書房の頃

『ガケ書房の頃』山下賢二・著(夏葉社・刊)を読みました。

京都市左京区に2004〜2015年まであった「ガケ書房」という本屋の店主・山下さんの半生記です。本屋原体験や、中学まで学校で一言もしゃべらなかった体験、家出、ナンパ、エロ本編集者、書店開業まで疾走感ある青春期としてかなり面白く読みました。

しかし、後半の「ガケ書房」閉店へと至る過程は身につまされる思いでした。

山下さんが「ガケ書房」を営みながら感じてきた喜びと苦み、書棚を介したお客さんとの交流、苦渋の決断は、わたしの暮らす町・新潟の「北書店」佐藤さんのそれとあまりに酷似しているように見えたからです。お二人が持っている「へそまがりの美学」もなんだか似ている気もして...。

また、わたし自身はお店ではありませんが、そこに並ぶ雑誌を作っている者として共感することも多かったです。「本はどこへ行った」という項はとくに。カフェ併設型書店が提案している本・雑誌の持ち込みOKが意味すること。また逆にスマートフォンの便利さと本業界への懐疑など。

それから「二枚目的な品揃えについて」の項も山下さんの本屋としての姿勢がよく出ていると思いました。「おしゃれでかっこいい二枚目的ライフスタイルが花盛り」の雑誌に対して、そうでない価値観も示したいと。そこには「おしゃれに気を使わない人や、年配の人や孤独な人にも楽しんでもらいたい」という思いがあったそうです。

「実は僕たちは今、『その町に本屋がいるかどうか?』という議題の国民投票をしている」とはじまる終章で、ふたたびその思いが語られます。

山下さんが子どもの頃通っていた「こま書房」のおじさんの姿。「よく町中を自転車で走っているおじさんを見かけたものだった。町のニーズになりふり構わず全身で応え、店主の機動力で生き延びてきた店。僕の長い立ち読みを目の前にしながら、安息の場所として本屋に集まる人たちを、おじさんは邪険にできなかったのかもしれない」。

新潟県内でも、毎年、書店閉店の話を聞きます。Life-mag.の取扱店が閉店したということもあります。国家予算が国の在り方を決めるなら、わたしたちの個人予算は地域社会の在り方を決めるのでしょう。あらためて「消費は投票」ということを意識したいなと思いました。

一箱古本市in現代市

・わたしは主催者ではありませんが、最後に宣伝です〜。

6/11(土)19:00〜、北書店にて山下賢二さん(ホホホ座)×佐藤雄一さん(北書店)のトークイベントがニイガタブックライトさん主催で行われるようです。参加費1,000円。

[詳細]http://niigatabooklight.com/

6/12(日)に新潟市学校町通(Life-mag.の編集室もここ)で行われる「一箱古本市in現代市」の関連イベントです。6/13(月)19:00〜はわたしも登壇予定です!合わせてぜひ〜。

納品回りのひとこま、[岩室]ギャラリー室礼にて

書は華雪さん

納品回りの際、[岩室]のギャラリー室礼に行った。一階は「灯りの食邸 小鍛冶屋」で、その二階がギャラリー空間になっており、古本、民芸品、器などが展示、販売されている。主宰する桾沢さんにお声がけいただいて、ここでも新刊を取扱っていただけることになった。

納品はすでに済ませていたので、この日はひとり、ギャラリーに流れる時間に身を置いた。古本を物色し、静かにソファに座った。乳白色のすりガラスから春の陽光が射し込み、築100年ほどという古民家の床板を輝かせていた。

どこからともなく小さな音でピアノが流れている。聴いたことがある。わたしも仕事中に時々、聴いているドイツ人ピアニストのCDだった。

居心地がいい。

ふぅ、とソファに腰を沈めると、日常の喧噪を忘れさせる異空間にきたようだった。すると普段だったら目に止まらないような古本にもなぜか興味が湧いてきた。

『なぜ古典を読むのか』

須賀敦子訳の『なぜ古典を読むのか』イタロ・カルヴィーノ著(みすず書房)を手に取って、ぱらぱらとめくった。カルヴィーノは、20世紀前半のイタリアで活躍した文学者で編集者である。

日常ではまず手に取らないであろう本が、ぐっと身近に寄ってきた。

著名となっている「なぜ古典を読むのか」という章を拾い読みした。

「7 古典とは、私たちが読むまえにこれを読んだ人たちの足跡をとどめて私たちのもとにとどく本であり、背後にはこれらの本が通り抜けてきたある文化、あるいは複数の文化の(簡単にいえば、言葉づかいとか習慣のなかに)足跡をとどめている書物だ。」
「13 時事問題の騒音をBGMにしてしまうのが古典である。同時に、このBGMの喧噪はあくまでも必要なのだ。」
「14 もっとも相いれない種類の時事問題がすべてを覆っているときでさえ、BGMのようにささやきつづけるのが、古典だ。」

とあった。

これって・・・

古い本、古い建築、古くから伝わる手仕事の知恵(室礼の活動のひとつ「土着ワークショップ」など)を活かした室礼の取組/空間自体が、カルヴィーノの言う「古典」的ではないかと思った。

また、「古典」とは、生まれ育った「故郷」のようだとも。

ぼんやりとそんなことを考えながら、またわたしは納品回りの喧噪へと戻った。

2016年5月26日木曜日

【トークイベント】「ナンダロウアヤシゲ ミーツ ライフマグ〜地域雑誌を考える〜」

「一箱古本市」関連イベント

【トークイベント】「ナンダロウアヤシゲ ミーツ ライフマグ〜地域雑誌を考える〜」

いまや全国各地で開催されている「一箱古本市」の発起人であり、編集者でライターの南陀楼 綾繁(ナンダロウ アヤシゲ)さんが、新潟のインタビュー誌『Life-mag.』編集発行人の小林弘樹に制作の舞台裏をアレコレ聞くトークイベントです。

5月に発刊された『Life-mag.vol.009【寺泊・弥彦・岩室・巻 編】』の制作エピソードを中心にトークを予定しています。本誌で掲載されなかった写真や資料なども交えて、その制作の舞台裏をお話できたらなと思います。

また、逆に全国各地の一箱古本市を訪ね歩いている南陀楼さんからも、各地の地域誌の作り手やその想いなどをお伺いできたらなと思っています。

日 時:613日(19:0021:00
参加費:1,000円(当日、受付にてお支払いください)
会 場:hickory03travelers(古町通3・新潟市)
申 込:Life-mag.・小林(niigata@life-mag.com / 025-378-3258)、北書店・佐藤(sato@kitashoten.net / 025-201-7466)で受付ています。フェイスブックのアカウントをお持ちの方は【こちら】からも受付可能です。




南陀楼 綾繁|1967年生まれ。島根県出雲市出身、東京在住。編集者、ライター。近著『ほんほん本の旅あるき』『谷根千ちいさなお店散歩』など。ツイッター・http://twitter.com/kawasusu/。

小林 弘樹|1983年生まれ。新潟市出身、在住。『Life-mag.』編集発行人。ウェブ・http://life-mag.com/。

このイベントは、前日の6月12日(日)にニイガタブックライト主催で行われる「一箱古本市in現代市(いまいち)2016」の関連イベントです。こちらもぜひ足をお運びください!

[詳細]http://niigatabooklight.com/

2016年5月24日火曜日

佐渡納品回り。庭師・若林吉則さん宅にお世話になって。

若林さんがセルフリノベーションした古道具屋兼ゲストハウス「優遊亭」にて

昨日から佐渡へ納品回りにきています。昨晩はvol.005【佐渡編】掲載の庭師・若林さん宅にお世話になりました。地域の方たち10人弱の宴会に寄せてもらいひと時を過ごしました。

宴会では、柿餅本舗の五十嵐さんご夫婦も一緒でした。素朴な味わいの柿餅はおすすめの逸品です。ブログで製造の現場や佐渡の暮らしを垣間みることが出来ます。

[リンク]http://sado-biyori.com/blog/kakimochihonpo/

また各店を回って行くと、佐渡編の2回目はやらないのか?またはこういう企画でやってみない?など声をかけていただけて、とてもありがたいです。近い将来、実現できたらなと思います。

今日現在の佐渡島内の取扱店は以下です。
・蔦屋書店佐渡佐和田店
・城南窯ギャラリーカフェ
・丸屋書店
・本間書店
・池田屋商店
・ドラッグストアなかがわ
・茶屋 四分一

まだまだ各町を訪ね歩き、再会と出会いを繰り返し、納品と営業を続けていきます。ぜひとも購読、愛読のほどよろしくお願いいたします。

[新刊情報]http://life-mag-interview.blogspot.jp/2016/04/life-magvol009.html

2016年5月23日月曜日

ホワイトハンズ・坂爪さん新刊『セックスと障害者』

『セックスと障害者』坂爪真吾 著(イースト・プレス 刊)

vol.002の取材でご縁をいただいた坂爪さんの新刊をようやく読みました。障がいのある人たちの〈性〉や〈セックス〉を取り巻く様々な課題、問題を取材し、その解決策を提示した本です。

障がい者同士の結婚の問題、障がい者の兄弟がいる子どもの問題、障がい者は性犯罪の被害者にも加害者にもなりやすい問題、障がいとLGBTというダブルマイノリティを抱える人の問題、性産業で働く女性障がい者の問題などについて、どのような問題があるのかを分析し、どんな社会や理解や制度があれば解決に向かうのかを果敢に提示しています。

障がいを持たない人にとっても、〈性〉や〈セックス〉の問題はつい一人で悩み続けてしまうのではないでしょうか。障がいを持っていれば尚更だと思いますが、地域コミュニティに接点を持つこと、相手の立場にたったコミュニケーションをとることなど、その解決策には案外、共通項も多いのかもしれないなと思いました。

本書では9つの事例から問題を考えますが、エピローグはそれらの問題が凝縮した事例なので、本屋で立ち読みをする場合、ここから読むといいでしょう。そして、ぜひレジへ。

この一年だけでも単著3冊目の坂爪さん、筆が乗ってるのが、読んでて伝わります。書いてても気持ちがいいだろうな〜。社会の制度や常識がうやむやにしようとする各課題に対し、潔癖なまでに曖昧さを許さない坂爪さんの筆が迫っていくようでした。

日本で最初の知的障がい児の福祉施設である滝乃川学園(国立・東京)の石井亮一や、「心身に障がいを抱えながら売春を続けた結果、もはや更正が不可能なまでに壊れ果ててしまった女性たちがその後の一生を過ごす場として設立」された「かにた婦人の家」(館山・千葉)の深津文雄がキリスト教の教えに影響を受けていたという話が出てきます。

「いと小さきものに為したるは、すなわち我に為したるなり」

この言葉に二人は特に影響を受けたといいます。これは坂爪さんのホワイトハンズの事業、また執筆活動に底流する思いとも近いと思います。〈生と性のバリアフリー〉を掲げ活動を行う坂爪さんもまた〈聖〉者のようだなと思いました。

2016年5月21日土曜日

納品回りのひとコマ。長岡市城内町「0258」へ。

「0258」(城内町・長岡)オーナー・野歩さんと

『Life-mag.vol.009【寺泊・弥彦・岩室・巻 編】』の納品回りを続けています。まだそこかよ!と思われる方もいるかもしれませんが、まだまだやってます。

「作ること」も様々な準備、技術、運が必要ですが、「売ること」もまた同じくらいの持久力が必要になってきます。そして、各店を巡りながら、再会と出会いを繰り返し、次への英気を養っています。

久しぶりに各町を巡ると店主さんの近況、お客さんの流れ、町の変化、世の中の雰囲気がまた変わっていて、これを感じるのもいい勉強です。

写真は、取扱でお世話になっている「0258」(城内町・長岡)のオーナー・野歩さんを訪ねたときのものです。懐石料理とお酒、アートをテーマにしたお店です。長岡方面に出かける機会がありましたらぜひ。

昨日は、[巻][燕]へ営業、精算、納品に回りました。来週、ようやく[佐渡]を回れそうです。

[新刊案内]http://life-mag-interview.blogspot.jp/2016/04/life-magvol009.html

2016年5月15日日曜日

寺泊・弥彦・岩室・巻 編の御礼、納品回りを続けています。

もくじ

『Life-mag.vol.009【寺泊・弥彦・岩室・巻 編】』の納品回りを続けています。

4月末から掲載者と協賛広告主への御礼へと歩き回り、一週間強。その後、新潟市内の納品回りを行っていました。ようやく一昨日、三条〜長岡方面の一回目に出かけることができました。途中、催促をいただいた取扱店さんへは郵送させていただきました。

前回までの取扱店さんへは順次、回っていく予定ですが、納品・取扱状況に関しては、直接、お店に問合せいただけますと幸いです。大型書店さんでもやはり、お客さまから「欲しいんだけど、ないの?」と問合せがあるのと、ないのとでは、店員さんの対応もかなり違ってくるので...。

今日は納品回りの足をとめて、経理業務、営業計画などを編集室で進めたいと思います。まだ新潟市内も回りきれていませんが、来週からは三条、燕、新発田、佐渡、東京へと回っていきたいと思います。もう2週間は続きそうです。

「産みの苦しみ」とはよく言ったもので、制作期間中、あれだけ悩み苦しんだ日々も、もうすっかり忘れてしまっています。掲載者をはじめ、書店、映画館、ギャラリー、カフェ、雑貨店、介護福祉施設などを回り、各店主さんと再会していく中で、また次への活力をいただいている気がします。編者にとっては「聖地巡礼」のような気もします。

また毎号アナウンスしていますが、ライフマグはぜひお近くの「取扱店」さんで購読いただけますと幸いです。店主さんが心血を注いでつくったお店の一角をお借りしていますので。ただ、遠方の方には通販窓口もあります。ウェブサイト(http://lifemag.thebase.in/)からお申込いただけますので、ご利用いただけたらと思います。

本誌がひとりでも多くの読者が得られるよう願っています。ご愛読のほどどうぞよろしくお願いいたします。