2016年12月20日火曜日

おすすめ本・藤田孝典『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新書)

続・下流老人

おすすめ本の紹介です。

埼玉県でホームレス支援、生活困窮者支援を行うNPO法人ほっとプラス・藤田孝典さんの『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新書)を読みました。現在の日本社会で急速に進行している「貧困」の実態を報告し、年金・医療・介護制度の欠点(破綻)を指摘、さらに「ではどうすればいいのか?」を提案した本です。

「下流老人」とは「年金や貯蓄が少ないうえに、病気や事故、熟年離婚など、やむを得ぬ事情により貧困生活を強いられている高齢者のこと」。特徴は「収入」「貯蓄」「人とのつながり」がないこと、と定義されています。

以下、本書で示されているデータです。

生活保護対象の世帯は約162万世帯(2016年6月、厚生労働省発表)いて、そのうち65歳以上の高齢者世帯が約83万世帯あります。しかし、この数字は生活保護を受給できている世帯のことで、実際には「生活保護基準未満世帯における生活保護の捕捉率」は2〜3割とも言われているとのこと(都留文科大・後藤道夫名誉教授調べ)。つまり、生活保護基準よりも少ない収入で暮らしている高齢者の7〜8割は生活保護を受給していない(制度とつながっていない)ことになります。

2013年度末時点で、65歳以上の高齢者が受け取っている年金月額は6〜7万円が約460万人、5〜6万円が約330万人、7〜8万円が約320万人。「収入」の面で高齢者がそういった状況にありますが、しかし、総務省の「家計調査報告」では単身高齢者の1ヶ月の平均支出額は約14万円とのデータが出ています。毎月の不足分は「貯蓄」や「労働」によって補わなければなりません。

他にも貯蓄額や老人ホームの入居費用などのデータも示されていて、いまの日本社会では、誰もがふとしたきっかけで「下流老人」になることが指摘されています。

「あそこの80歳のじいちゃん、ついこの間、納屋で首を吊ったんだって。ここらじゃ珍しくねえんだ」。

いくつかの事例もあげられていますが、そのひとつひとつが切実です。

ではどんな社会にしていけばいいのか? 著者の提案は、「脱商品化」をキーワードにした社会です。それは、医療、住宅、教育などの誰もが生きるために必要な「社会的共通資本」は政府が整備すること、社会保障は「現金給付」によるベーシックインカムの考え方ではなく「現物給付」とするといった政策です。

これらは「社会を変えるには」という壮大な提言でもあります。しかし、社会を覆う閉塞感と不安感から「貧困は自己責任」と問題を矮小化することなく、どんな社会を目指すべきかをそれぞれが自分事としてとらえ、小さな声をあげ続けることが大切と提案されています。

困窮者支援の現場に立ち続け、個別具体の声に寄り添い、ともに悩み、嘆き、悲しみ抜いてきた著者だからこその危機感と情熱がこもった一冊です。

ぜひ一読を。

[詳細]http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18665

著者と学生時代、ビールを浴びて一緒に騒いでいたのはもう遠い過去。いまでは彼は連日の講演会、新聞、雑誌、テレビへの出演、果ては国会でも参考人として発言と、八面六臂の活躍です。わたしに出来るのは本を買うこと、学ぶこと、自分なりに解釈してまた人に伝えることかな。

陰ながら応援しています。