2013年2月5日火曜日

『やがて哀しき外国語』メモ

『やがて哀しき外国語』村上春樹・講談社文庫 
読書メモとして残しておきます。

この本は、村上さんがプリンストン大学に在籍していた1991年から2年半くらいの間を文章にまとめたものです。

私の大学時代の恩師・原彬久教授もかつてプリンストン大学に客員研究員として在籍していたと聞いていました。私は「どんなところだろうなぁ・・・はぁ・・・」ってくらいなことでいました。それがこの本を読んでプリンストンの街の空気感、大学の学風などがよく伝わりました。偶然だが、村上さん同様、原教授もフォルクスワーゲンに乗ってた。これがコレクトな答えなのだろうか(笑)。読んでいただくとわかります。
あとがきもけっこう熱がこもっていて面白かったです。

〈印象に残ったところ〉

日本における団塊の世代である自分たちが何を問題にして、何を実行しているかと考えるが、いまいちイメージがわかないとしている。
─────引 用─────
それにあえて言うまでもないことだが、地域的な環境保全だってずいぶん重要な問題である。「そんなことよりもっと大きな問題があるだろう」と非当事者が言うのは簡単だけれど、まず自分の庭の樹木一本から始めていくというのは、それなりのひとつの見解ではある。「問題が大きすぎる」と言って初めからあきらめて何もやらないというよりはもちろんずっとましだ。やれるところから地道にひとつひとつやっていけば、いつかその先に突破口がみつけられるかもしれない。
─────以 上─────


日本のマラソン大会における選手名簿にふれて
─────引 用─────
それから選手名簿についてもうひとつ僕がうんざりするのは、そこに必ず所属団体名が明記されることである。たとえば僕は〔村上春樹・××歳・東京・所属なし〕という風に記載される。
〜中略〜
そして、「ああ、俺は結局この世界のどこにも何にも属してないんだな」とあらためて実感することになる。
─────以 上─────



観光業者とお役所が組んで行う日本の多くのレースと比較して
─────引 用─────
アメリカのレースを走って僕がいつも感じるのは、「手作り」「草の根」の味わいのようなものである。それらのレースの多くはそれぞれの地域の小さなコミュニティーによって運営されているし、レースの基本的な目的は地域住民の健康的な生活の増進に寄与することにある。
─────以 上─────


─────引 用─────
外国人に外国語で自分の気持ちを正確に伝えるコツというのはこういうことである。
(1)自分が何を言いたいのかということをまず自分がはっきりと把握すること。そしてそのポイントを、なるべく早い機会にまず短い言葉で明確にすること。
(2)自分がきちんと理解しているシンプルな言葉で語ること。難しい言葉、カッコいい言葉、思わせぶりな言葉は不必要である。
(3)大事な部分はできるだけパラフレーズする(言い換える)こと。ゆっくりと喋ること。できれば簡単な比喩を入れる。
以上の三点に留意すれば、それほど言葉が流暢じゃなくても、あなたの気持ちは相手に比較的きちんと伝えられるのではないかと思う。しかしこれはそのまま〈文章の書き方〉にもなっているな。
─────以 上─────


─────引 用─────
それから僕は二十九になって、とつぜん小説を書こうと思った。僕は説明する。ある春の昼下がりに神宮球場にヤクルト=広島戦を見に行ったこと。外野席に寝ころんでビールを飲んでいて、ヒルトンが二塁打を打ったときに、突然「そうだ、小説を書こう」と思ったこと。そのようにして僕が小説を書くようになったことを。
─────以 上─────