2017年8月18日金曜日

本の紹介『町を歩いて本のなかへ』南陀楼綾繁(原書房)

町を歩いて本のなかへ

南陀楼さんがこれまで様々な媒体に書いてきた書評、エッセイ、ルポをまとめた『町を歩いて本のなかへ』が発行されました。

ブックイベントやリトルプレスについて書かれたものや週刊誌などに寄稿した書評、そして、日記と書評をミックスしたような第3部「早稲田で読む」など、どれも引き込まれる文章です。どの文章も客観的な批評ではなく、かならずその本が南陀楼さんの人生にどう影響を与えたか、寄り添ったかが出てくるのがとくに好きです。

ブックイベントについて書かれた第1部「町と本と」では、ニイガタブックライトについての文章も掲載されています。「新潟の一箱古本市の特徴はマニアックな本がよく出ること、いい本なら高めの値段でも買っていくお客さんがいること」との評も。

第2部の書評では新潟に関する本だけでも、『州之内徹 絵のある一生』『クラクラ日記』『北越雪譜』『近代出版文化を切り開いた出版王国の光と影』などがあります。そして、第4部「本と人と、それから」ではLife-mag.【シネ・ウインド編】に寄稿してもらった「『シネ・ウインド』日記と成しえなかった夢のこと」も再録されています。あとは一緒に行った粟島取材で南陀楼さんが撮った粟島の路地の写真も。

それからわたしが背中を押されたひと段落がこちら。

「もちろん、経済基盤は強いとは云えない。他の仕事で得た資金でかろうじて続いている雑誌もあるだろう。頼りにしていた「場」が突然なくなってしまうこともあり得る。だけど、ひとつの地域に住みながら、そこにある文化、歴史、人などの資源を掘り起こしてかたちにしていく仕事は、たまらなく面白いはずだ」(p.062)

2016年2月に書かれた「いま、地方のリトルプレスは」と題した文章の一節です。

わたしもほんとにそう感じています。

右往左往しながら、9年でやっとこさ9冊を発行。少しずつではありますが、県外の書店さんや読者の方から注文をいただける機会も増えてきました。新潟にはどんな歴史や文化、人物がいるのだろう? とページをめくってもらえるのは、もちろん大きな喜びとやり甲斐です。

しかし、なお大きなやり甲斐は、同じ土地に暮らす読者の方々にこの雑誌が届き、読後、その読者が自分たちの暮らす土地への見え方、見える景色が変わったと言ってもらえる時です。地元という日常の景色に彩りと深みを感じてもらえる雑誌を作れたらなと、そんなことを考えながらページをめくりました。

全408ページ。短い文章が多いのでどこから読んでも面白いです。ぜひ手に取ってみてください。