渡辺一史『こんな夜更けにバナナかよ』 |
「病院で暮らすか、地域で住むかの選択権は、その当人にあるべきです。人工呼吸器をつけて、街で当たり前に生活できる世の中をつくるために、私は頑張りたい」
筋ジストロフィーを患いながらも、多くのボランティアを集め、自宅で暮らし、生き抜いた北海道の鹿野靖明氏の半生を追ったノンフィクションです。生きることをあきらめないこと、衝突を繰り返しながらも人と関わることをあきらめないこと、それは障害のあるなしに関係なく、大切な姿勢だなと感じました。
また、著者の渡辺さんは「無信条、無計画、無秩序に、雑多な文章を書いては糊口をしのいでいた」フリーライターだったようです。2年半に及んだ取材の過程では、「最後の一年は、他の仕事がまったく手に着かず完全に食えない状態になてしまった」「一冊の本ができあがるまでには、多くの人の助けと時間と労力と根気とお金と、そして、孤独な日々に向き合う図太さとが必要だった」とあとがきに書いています。
本の内容もそうですが、同じく地方で本(雑誌)づくりに携わる者としては、その制作背景(生活)の厳しさにも思いを寄せてしまいました。
2003年発行の本ですが、いまも読み応え十分です。おすすめ。