「地域活性化に興味があって、話を聞かせてもらいたいんですけど」とあきらかに緊張したトーンで電話がかかってきた。
そうだろう。
わたしが高校生の頃、社会人の知らない人にいきなり電話して、自分の問題意識をぶつけることなど到底できなかった。20分ちょっとの電話だったが、立派な高校生だった。拍手を送りたい。
夕方だったこともあり、子守をしながら夕食を作っている最中だった。それでもテキトーな答えにならないよう、ゆっくりと丁寧に答えたつもりである。
彼女の質問はおおよそこんな内容だった。
「なぜ紙の雑誌なんですか」
「雑誌を作ろうと思ったのはなぜですか」
「新潟の魅力はどんなところですか」
「昔から文章を書くことが好きだったんですか、得意だったんですか」
「新潟で起業するメリットはどんなところですか」
「起業の際に苦労したことはどんなことですか」
「営業はどんな風にやっているんですか」
ひと通り質問を終えた彼女は、「なんか良かったです。いまって、将来起業するぞって準備や勉強している人も多いですが、小林さんはそうじゃないんですね」と。
その通り。
なんの計画性も合理性もないところで、「こういうメディアをおれがつくらなければ」というなんの根拠もない、自分でもうまく説明のできない使命感から作り出したので。
しかし、彼女にはなにかが伝わっているようだった。相槌を打つ彼女のトーンが次第に明るくなっていくのを感じた。
さて、わたしからもすこし聞こうと思い「これは学校の授業の一環で聞いているのかな?」と言うと、「いえ、わたしの個人的な思いからです」と。
さらに聞くと、「人口減少や過疎が進む中でわたしの地元・直江津はどうなっていくんだろうって危機感があって。若い人は出て行くし、戻ってこない。これからどうなっていくのか...」とのことだった。
驚いた。
花角新知事が県の最重要課題として掲げることを直江津の女子高生もおなじく考えているのだ。この生徒が自分ごととしてこの問題に向き合う危機感と覚悟は、知事や県幹部職員ともなんら引けを取らないだろう。
2018年6月21日付、新潟日報朝刊より |
たまたま気になってノートに貼り付けていた藻谷浩介さんの記事からすこし引用したい。
新潟県の経済発展にはなにが必要かと問われて藻谷さんは、出生率が上がり、若者が戻ってくる環境をつくることだと答えている。経済がよくなれば人口が増えるのではない、とも。
以下はそのままの引用である。
「子育てが親の自己責任とされ、助け合いが難しくなれば、子どもが減るのは当然。特に新潟県など東日本は自己責任の考え方が強く、根底から改めなければいけない」
「必要なのは地域の良さを学ぶ教育だ。学校では農業や釣り、アウトドアといった地方ならではの遊びをあまり教えていない。親からも教わりにくくなっている」
「農村漁村では60歳を越えても畑を耕したり、祭りに汗を流したりして充実した生活を送る人も多い。こうした事実に目を向けてもらい、どうすれば充実した人生を送れるか一人一人が考えてほしい」
わたしの編集・出版活動がこの問題で担える役割としたら「地域の良さを学ぶ」こと、知ることの一助になることかもしれない。電話を終え、ふとこの記事の内容を思い出して感じたことである。
また、下線はわたしのほうで引いた。最近感じることだが、新潟で地域の顔役(会社経営、組織のリーダー、ちょっとした有名人)として活動する40代前後の人にも「自己責任」を過剰に訴える人は意外に多い。わたしも藻谷さんと同意見で、これ以上、自己責任を追求するよりも、助け合い、支え合える社会に向かってほしいなと願っている。
突然の一本の電話だったが、そんなことを考えさせられた。
ネットで検索したかで、Life-mag.のことを知って電話してきたらしい。だれか共通の知り合いに紹介されたのかと思ったら、そうではないとのこと。もしなにかあれば、いつでも連絡をもらえたらと思う。